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を被せてあるが)今では珍しい存在になった。しかし、三十年四十年ほど前までは茅葺きが当前で、茅葺き屋根でない家のほうが逆に珍しかった。周囲が稲架小屋でもある覆屋のなかに入っている土蔵、この形の土蔵は今ではもう建てられない。
水田の法面に積んである石垣は、土地の人には見慣れたものであり、その存在を気にしたことがないかもしれない。しかし、この石垣がある風景はどこにもありはしない。江戸時代末期の水田開発にともなって引かれた用水路、堰は、土地の人でもどこにでもあるとはおもっていないだろう。確かにどこにでもあるものではない。これら水田にしても用水路、堰にしても、勇気をもって事業を起こり、成功させた先祖たちの知恵となみなみならぬ努力の結晶である。それが今、眼の前に頑としてあるのだ。
まだ、ほかにもたくさんある。石仏たち、青鬼神社とその石段、火もみ神事、などなど。
これらの遺産は祖先たちが生きてきた証である。周囲の森や林も同じだ。心構えがあれば、われわれはそれらから学び、歴史を読むことができる。じっくり観察して、祖先たちの勇気と知恵、そして努力のあとをみんなで探し、なにを残し、それをどんな方法で残すかみんなで考えてみよう。われわれも考え、お手伝いすることはできる。
「なにを残し、それをどんな方法で残すか」、この文は「なにを保存し、どう活用するか」という文に書きかえることも可能である。

 

3 特定、認定、指定、登録物件の台帳をつくる

残すものの歴史的背景や社会的背景がわかってくると、残す意味がわかってくる。それがわからないうちは、取り壊すことはとりあえず止めよう。ときの熟するのを待とう。
残すものには、眼にみえ形があるもの、眼にみえるが形がないもの、眼にみえないもの、などと分類して考えることができる。
たとえば、家屋は眼にみえる。それを作っている動作も眼にみえ

 

 

 

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